待ち侘びて

†例年より早く咲いた様だ。 自宅から程近い公園の中で、 美しく咲く桜の花弁を見上げながら、 ぼんやりとそう思った。 今日は珍しく早起きした君から、 公園の桜の木の下で逢おうと電話が掛かってきた。 向こうから逢おうと言ってくるなんて一度も無かった。…

脳から抜粋

†彼はすぐに娘の仕業だと察知した。 …あの女…此処から出たな…。もしかして…。 すぐに館の前に車を用意させると自ら運転をし、 見当の付いて居る世界へ車を飛ばした。 其の世界は、彼の住む世界とは異なる世界であり、 君臨者など存在しない自由な世界だった…

薫光

†漆黒の闇に、 仄かな柑橘と、 淡い緑の香。 星は遠く、 彼方の記憶は、 嘘で彩られた光に遮られる。

雷音

†辿り着いたのは蒼い世界だった。 昼なのか夜なのか判然としない広い空も、 美しい線を描いて遠方まで聳える山々も、 視界全てが蒼一面だった。 遠くに細く稲妻が走っているのがみえた。 何も知らされないままに連れて来られた世界。 確かめる事すら否定する…

救いの礫

†悲しみは昨日の夕空に癒されたから、 今日は銀灰色の空から降る礫に打たれて、 再び歩き出す為に心を洗ってみるよ。 もうこの手は、 徒に誰かを駅のホームから落とす衝動に、 支配されたりしないから。 君が僕の鎖で苦しむ事があるのなら、 救いの手にはな…

狂れる

†何も言えなくなり、 如何したら良いものか、 わからなくなって、 不確かな雑音に、 こうして紛れて、 外と内からの視線を、 幾度か感じるうちに、 少しずつ灰色の氷が、 心の中に形成されゆき、 私という在り処が、 徐々に見失われて了う。 少数でも救いの…

知らずぶり

†三月/九日。 明けた空を一仰ぎもせず。 俺は一体何をして居るのか。 先程から煙草ばかり喫んでいる。 虚ろに指先を見詰めながら。 休まる事を知らない振りをするだけ。 外側から幼児らの声。 お前達の方が。 今の俺より。 ずっと。 暮れの空は、 星の一つ…

彼女の現状

†パソコンの電源を入れてから気付いた。 今日もこの世界の中で生きて終わるのだと。 まるで藥の様に無しでは不安な筈はないのに、 こうして向かいながら時折り空ばかりみている。 ママは言う。 「箱の中に篭ると本当の空を知る事が出来ない」 彼女は今現在、…

楽厭

†ゆらゆら。 その手により。 あやされ。 形のない籠に。 揺られている。 点滅する魂の鼓動。 夜に咲く花は。 儚く咲き乱れる。 ただひたすら。 瞬きもせず。 それを眺めている。

無雪

†雪が降ったのさ 白く塗り潰すペンキの雪 雨が降ったのさ 突き刺さる様な銀の針の雨 誰も寂しさを解る事は出来ないよ。 誰も寂しさを解ってはくれないよ。 雪の降る街には温もりがあるけれど、 雪の降らない心には温もりはないよ。

六月九日の契り

†僕の唾液で浄化される君の躰 君の中で過去の傷を癒す僕 二人の躰が溶けあう中で 魂さえも溶けあわせたら 清らかで優しい光が 二人の陰さえ包み込む 言葉の必要ない世界で 境界線を失う

想々

少しでも永らえたいから 「 」に届く様に 祈りの舞を †捨てるのは容易だけれど、 再び見つけ出す事は難しい。 考えなくてもわかる事。 何でも簡単に捨てるのを止めたのは、 二度と手に入らない怖さを知ったから。 臆病者は舌を切り自らを改め、 疲れ人は誤解…

見守る者

いくつの争いを視てきただろう 感情がなくなるほど涙を流して この世界から抜け出せないのなら せめてもう一度だけでも †少女は探し続ける。 この世界に落とされてすぐに、 様々な争いに巻き込まれ、 離れ離れになってしまった母を。 唯一の希望である、たっ…

生まれ変わる人

雪原を目指してみる 決めていた訳ではないけれど とにかく此処より遠くへと †着飾るのと似た感覚で、 あまりに心を飾り過ぎたみたいだ。 まったく無意味で必要のない嘘。 脱ごうとしても何かが許してくれなくて、 解けないくらい固められてしまった。 そのお…

彷徨う人

まるで旅人の様な後姿 黙って此処から見送った †もしかして引き止めて欲しかったのか。 もう今は知る事すら出来ない。 最後の電話に出られなかった事だけが、 今も悔やまれる。 でも、もう惜しいとは思わない。 そう、もう欲しいとも思わない。 余りに煩い君…

曖昧な鎖

そんな寂しそうな目をしないで 君の獲物なら 底にたくさんいるから †傍らで見守っていた。 そうしていないと見境を失くす気がして。 苦しくない様にといつ切れても良い様な、 中途半端な鎖に繋いだのがいけなかった。 眠れる寂しがり屋が目を覚ます。 機嫌が…

悲しいゲヰム

君達は僕を巧く騙しているつもり でもね 僕は君達のその透けた企みなんて 最初からお見通しなんだよ †いつも何かを見る目だけは、 猜疑心と自信に満ち溢れているから、 まるでゲヰムをしているかの様に、 退屈しなくてすんでいるよ。 ほら、思った通りだ。 …

悲屈

突然切れた スイッチも入らない くるくる回してみても反応が無い 悲しいばかり 遣り切れない †壊れたら直せば良いと言ったのは誰だったか。 原因不明の故障でも説明書を読めば良いと。 しかしここまであらゆるモノが壊れてくると、 直すのも説明書を読むのも…

不足

素直じゃないと言われると もっともっと素直を捨てる そうしているうちに 優しさまで薄らいでゆく †負けず嫌いは、 偶に違う方向へ放たれてしまう。 何かをしようとしている時、 また、自分の心に素直になっている時。 そんな時に妨げる様な事を言われたり、…

浮遊感

いつもそうな訳じゃない ひどくゆっくりとみえるだろうけれど 頭の中は常に忙しないんだ †オルゴールの音色は優しい。 幼い頃から愛している音色。 眠りに就く時にも楽しむのだけれど、 目覚ましには向かない。 余りの心地良さに身を委ねてしまう為、 起き上…

信号

今朝も早く起きたから 背中を押してくれる何かを探す まだまだ遠く感じるけれど 入り口まであと一歩なんだ †自分自身に打ちのめされた気分。 何故、斯様な事態に陥ったか。 明白だ。故に震えが止まらない。 水の様に流れ過ぎゆく景色すら、 今日は楽しむ事が…

夢幻

朝の冷たい空気に 深呼吸を何度も繰り返して 音楽を †どうしても気になって、 ベランダに出てみる。 空の色と澄んだ空気に、 寒さを忘れて伸びをする。 そう、これですよ。 気付けば口元に笑みを浮かべていた。 不思議?不気味。 夢でも現でもない 白い微睡…

伝えたいのは何

母の胎内にいる様な心地良さ 何故そんな事がわかるの ものの譬え ただの勘 †頭の中が回る洗濯機の槽内のよう。 暫くの間じっとしていると揺れは治まった。 考えるのは刺繍のメッセージの内容。 どうしてもその先が思い出せない。 最近よくある謎のメッセージ…

窓の向こう

遠くからのベル音と光 身体に期待の変化無し また不純 †味覚が少し麻痺している。 珈琲と有害な一服で曖昧にさせて。 気合で覚醒したのは良いけれど、 これから来るであろう悩みや闘いの為にも、 それは温存しておかなければならない。 頑張っている人に頑張…

+−

エンジンに痛みを感じ 三分間 蹲る 誰にも知られない処で †故障は付き纏うのでしょうか 何処までいっても離れません 事情を知ってか知らずか 四角四面が急かすものだから 覚悟を決める 壊す覚悟を デジタル仕様な人々の中に 倦怠し切った身を置いた 人形の様…

花模り

動くと鈴の様な音を出す 愛らしい指輪 花を模ったそれは 僕の宝 †久し振りにバッハを楽しんでいるのに、 音として耳には入って来るものの、 今回はどういう訳か脳に響いてこない。 心身共に健全であるとは言い切れないだけに、 その事が何だか腹立たしくて寂…

紫煙

カーテンが開いて 音楽が流れたら 覚醒する †銀の箱の中の有害な安らぎを一服。 カーテンは開いているのに音がない。 寂しいなぁ起きれないよ、って呟いて、 再びヘッドフォンを耳に。 何とも甘く冷たく優雅な曲が流れ、 重い瞼がしっかり開かれた。 白い朝…

暗い空

低く唸る音 煩い 思考が遮断されがち †先刻ヘリコプターの音が続いていた。 頭上からの低い音というのは非常に不安。 顧みて頭上より硝子の粒に圧されてから、 看板の下、ビルの工事現場などが苦手。 何も無い所へ住まない限り、 それは避けてはいられないの…

丸い窓が浮かんだ もう大丈夫 何にも邪魔される事の無い 僕だけの桃源郷をみつけたから †生かされている。如何でしょう。 自らの意志で生きている。 これが正解ですか。如何でしょう。 何かに対して、これが正解。 そういう決め付けはない様にも思う。 昨夜…

起床時 寒い 足 冷える 待ち侘びていた訳だけれど 外に出なければ意味が無い †寝起き悪し。毎度の事。 恒例、缶珈琲を手渡される。 相手は寝起きの為にと思ったのか、 冷たい缶を頬に当ててきたが、 そんな事をされては敵わない。 怒りからくる得体の知れな…