見守る者

いくつの争いを視てきただろう
感情がなくなるほど涙を流して
この世界から抜け出せないのなら
せめてもう一度だけでも




†少女は探し続ける。
この世界に落とされてすぐに、
様々な争いに巻き込まれ、
離れ離れになってしまった母を。
唯一の希望である、たった一人の母を。
二人の手を離れさせた争いという生き物。
それを憎んでいる余裕などなかった。
早く会いたい。母の優しい顔を思い出す。
草木の枯れた絵画の様な地を小走りに抜け、
漸く忌まわしい音が囁き声の様になった。
疲労から喉の渇きと空腹を覚え始めて足を止め、
白いワンピースのポケットに手を入れると、
飴玉が三つあった。近くの平らな岩に腰掛ける。
母に二つあげようと思い、一つだけ口に入れた。
探してはいるけれど無事なのか。
何度も疑問が湧いたけれど関係ない。絶対無事。
それに…どんな姿でもいいから会いたかった。
考える事は走るよりもっと疲れる。
岩の上に横になり白みがかった東の空を眺めた。
もう夜が明ける。飴が溶けたら動こう。
体勢を変えようとした時、水の音を耳にした。
幻聴か本物か。そっと起き上がって確かめる。
誰かがいる。それもかなり近くに。
緊張の気を悟られない様に暫くじっとしていた。
しかし、あれだけ感じてきた悪意を感じない。
少女が近くに存在する事も知っている筈。
警戒を解いた。少なくとも敵ではない。
迷いのない足取りで一歩ずつ近付いてゆく。
小さな泉の水を力なく啜っている小柄な女性。
完全に白くなり淡い日が差す空の下で、
母と娘は再会した。

硝子玉の様に透け濡れた瞳は
冬の凍てつく光に照らされて
虹彩の色も豊かに反射しては
足下の泉に虹色の雫を落とす

ずっと待っていて、ずっと探し続けて、
偶然でもやっとの思いで愛しい娘と再会出来たのに、
涙が出ない。微笑む事すら・・・。