浄花

浄花

†独りでバーに入った事などなかった。
酒はあまり飲めなかったから、
誘われた時に付き合いで少し飲む程度だった。
然し今夜は、どんな店でもどんな酒でもいいから、
とにかく酔いたかった。
すべてに疲れ果てすべてが嫌になり、
自分が自分である事さえ嫌だった。
バーテンダーにとにかく強い酒をくれと言った。
出された酒はブッカーズという、
62度もあるバーボンだった。
何杯飲んだか覚えていない。
何時まで飲んだのかも覚えていない。
喉が焼ける様だったが、
構わず飲んだのは覚えている。



瞼の裏に眩しさを感じた。
此処は何処だろう。
頭がひどく痛い。
気がつくと、うつ伏せに倒れていた様だった。
なかなか開かない瞼を漸く開くと、
目の前に紫色の小さな花が風に揺られていた。
花弁に溜まった朝露を指先でそっとすくい口に運ぶと、
低く垂れ込めていた雲が晴れて行く気がした。