傷痕

造形

†鈍りがちな身体を動かす為、
軽く散歩に出かける事にした。
散歩なのだからと行き先は決めず、
ふらりと色々な所を流し歩いた。
あちらこちらで桜が咲き散るのをみて、
もう春がきてしまったのだと胸が痛んだ。
僕にはあまり時間が無いから。




日が暮れかけてきた。
結構歩いたのだと疲れを感じ、
帰宅するべく大通りを目指すと、
大変懐かしい通りに出た。
だが、風景が少し変わってみえる。
あれだけ活気のあった店々や、
懐かしい通りが失くなっていた。



衝撃的な哀しさだった。




暫く動けずにその場に茫然と佇んでいた。
何故か思考がうまく働かない。
人々はそんな僕に目もくれずに通り過ぎただろう。
漸くの思いで我に返り、ゆっくりと辺りを見回した。
そこで一棟の工事中の大きな建物に気付いた。
見上げるとタワークレーンが載せてある。
こうやって何もかもが変わってゆくのだろう。
そう思った時、顔の傷が少し疼いた。



あれは中学生の頃だった。
道を歩いていると突然、頭上から硝子が落下してきた。
硝子は僕の頭を直撃し、その破片が顔に傷をつくった。
衝撃のせいなのか、心を除いて他に痛みは無かった。
以来、工事中の建物やビルの看板の下を通る時は、
細心の注意を払って通る様にしていた。




なのに。
あの建物に近付いても何も感じなかった。
何を造るのか気になって建物の下まで行ったのに。
もしかして僕も、この風景の様に変わったのだろうか。
強くなれたのだろうか。それとも弱くなったのだろうか。