クナレ

†遠い日に生きた旅人の言葉が蘇る。
その眼差しは深い泉の様に優しかったが、
紡がれる言葉の中には優しさはなかった。
壊れた時計をくれた旅人は西の空を見上げ、
お前もそろそろ旅立たなければならないと言った。
私も倣って西の空を見上げてみたけれど、
奇妙な亊に空という屋根が存在しなかった。




どれくらいの時を費しただろう。
目を覚ますと旅人の存在はなく、
ただ傍には書き殴られた文章が一行だけ、
壊れた時計と共に残されていた。





それから程ない感覚で起床した。
現の記憶にもない夢の中の夢。
苦い渇きを覚え水を飲もうと、
伸ばした手の先に西の空の色彩。





お前もそろそろ旅立たなければならない。





手首に無造作に巻き着けてある、
生きた時計がそう囁いていた。