解と望

階段

†この街に来るのは、どのくらい振りだろう。
ずっと一人だけ遠くに引き離されて暮らしていた為、
思い出す事は出来ても来る事は許されなかった。



ところが或る日、僕を縛る苦痛の鎖が解かれた。
あいつは自ら崩れたんだ。当然の報いだった。
消滅はしていないから悲しみもまったくない。
これでやっとお世話になった人に会いにゆける。



今もこの街に住んでいるのは確かだ。
あいつの手帳に記されていたから。
そしてその人がよく通る所までも記されてあった。
苦痛の果てのささやかな贈り物。
手帳から写した情報を頼りに『高い道』を探した。
結構探すのかと思って覚悟していたけれど、
それは本当に呆気なく、簡単に見付かった。
高い道。つまり此処からみたら、あの歩道橋。
いつ通るのかも判らない。今日、通るのかすら判らない。
でも、もしかしたら…もしかしたら会えるかも知れない。
消えそうな淡い望みを抱いて、
徐々に速まる鼓動を抑えながら、一段ずつ。