体温計

†思い出せるのは五歳の頃から…。
当時私は腎臓病という病を患っており、
中々退院出来ずに絶望しておった。
注射も嫌いだった為、その時間になると暴れ出し、
看護士さん三人がかりで押さえつけられておった。
(この時の経験のせいで今現在も注射嫌い)



それでも何故かひろし五木に似た医師にだけは、
完全に心を許していたらしく、
彼の注射の時は大人しかった由。
(この話をしてくれた時、母は薄く笑った。何故だ…)



そんな風にして五歳の子が日々、
看護士さん衆と戦いを繰り広げていた時に、
どこが気に入ったのか謎だが、
手放さなかったのが体温計じゃった。
今の様な電気製ではなく水銀型で、
自分の体温があの赤い線で表されてゆくのをみて、
未知なる物体を発見した様にしげしげと眺めていた。
(もしかしたらそこが気に入ったのかも知れない)



退院後も母に強請り自分用を購入、
何でもない時でも常に体温を計っていた。
最近ではあの型の体温計をみかけないけれど、
何かの問題でもう廃止になったのだろうか。