静かな絵

静かな絵

†少し悩みを休めたくて、
気分を変える為に外へ出た。
近くの自動販売機で缶紅茶を買い、
それを飲みながら路地を歩いた。
今日という日があまりに静かに感じる為か、
みえている景色は現実なのかと、
ふとそんな事さえ思ってしまう。
根を詰めすぎて考えが逃避しかけているのか。
知らず苦笑いが漏れる。



桜の木がたくさん並ぶ公園通りに差し掛かると、
何処からか幾片かの桜の花弁が舞い降りて来て、
まだ飲み終わっていない缶紅茶の飲み口に留まった。
公園なんて久しく足を踏み入れていない。
何だか懐かしい気持ちになり、
人もまばらなその公園で一休みをする事にした。



ベンチに座り、桜の花弁とともに紅茶を飲み終えると、
すぐ近くにあったゴミ箱へ捨て、一息ついた。
それにしても本当に静かだ。
少し離れた桜の木の下でしゃがみ込んでいる男性、
何故か一人でブランコに揺られている若い女性。
一つのベンチに腰かけて語り合う老夫婦。
他には誰もいなかった。



それにしても今日に限って何故こうも静かなんだ。
まるで誰かが描いた一枚の絵の様に思えてくる。
こういうのを長閑というのか。よく判らない。
気に入らなければ帰っても良いのだが、
悩みの停滞する家にいるよりはずっと良かった。



風の心地良さと長閑さからか睡気を催し、
ベンチに寝転がって空を眺めた。
桜の枝に隠れる様にして、
飛行機雲が一筋、空に線を描いて消えてゆく。
そう言えばあの線の事を誰かが飛行線と呼んでいたな。
あの人は今、どうしているだろうか。